1. ある秋の日の事
秋も深まったある日の午後、白玉と鯰尾藤四郎、そして歌仙兼定とにっかり青江、それから千子村正が、紅葉の美しい庭園に集まっていた。風が冷たくなりつつあるが、穏やかな日差しが照らし、木々は美しい朱や金色に染まっている。
白玉は見回しながら、村正が紅葉の葉を見つめているのを見つけると、一瞬、少し後ずさった。何か妖しいことを言い出すのではと警戒しているようだ。すると村正が気配を察知したのか、くすくすと笑い出した。
「huhuhuhu……どうかしましたか、主?…脱ぎまショウか?」
白玉は肩をすくめて、困ったように少し距離を取る。
「……そんなこと言わなくていい……」
それを見ていた鯰尾は、笑いをこらえつつ、村正に軽くツッコミを入れた。
「いやいや、村正、さすがに着物を脱ぐ必要はないから!せっかくの紅葉なんだから、普通に楽しもうぜ?」
一方、歌仙は腕を組んで、「紅葉は風情のあるものだ。秋らしい詩でも詠むのもまた一興だな」と静かに語ると、少し遠くを見つめた。青江は、そんな歌仙に微笑みかけながら、「さすが歌仙、風流だね。でも紅葉が美しいと、何か妖しい気配も漂うね……ふふふ」と言う。
白玉は、青江の言葉に少し不安げな表情を見せたが、鯰尾がその小さな肩をポンと軽く叩いて、「大丈夫だって、主!ただの紅葉だし、あんなに綺麗な景色だもの。こうしてみんなと見れるなんて、楽しいな♪」と元気に声をかける。白玉は鯰尾の言葉に安心したのか、そっと笑みを浮かべて、周囲を見渡した。紅葉がゆらゆらと揺れ、秋の美しい風景が彼らを包み込む。
歌仙は静かに目を閉じ、深呼吸をして紅葉の美しい景色を目に焼き付けると、ゆっくりと口を開いた。
「風に舞い 紅葉に染まる 秋日和」
優雅に詠み上げると、歌仙は満足そうに微笑み、そっと目を細めて紅葉を眺めた。
「秋の風情が、この庭一面に広がっているのが感じられるな……。こうして皆でいると、心が満たされる思いだよ。」
その一句に、青江は感心したようにうなずき、「さすが歌仙、情緒あるね。紅葉もきっと、君に詠まれて嬉しいだろう」と微笑む。
一方、鯰尾は感心しながらも、少し戸惑い気味に白玉へ囁いた。「やっぱり歌仙って風流だよな。俺にはなかなか難しいけど……でも、秋の日和っていいよね。主も、こういう雰囲気好きだろ?」
白玉は小さくうなずき、「うん……好き……」とぽつりと答えた。紅葉の赤や黄色が風にそよぐ中、彼らは秋の美しい日和を共に過ごしていた。
ふと、鯰尾が声を張り上げる。「よーし、みんな聞いてくれ!一番綺麗な紅葉を見つけた人が、主と一緒にお出かけできるゲームしない?どうだろう?」彼の提案に、仲間たちは一瞬目を丸くしたが、すぐに楽しそうにざわつき始めた。
「そんな遊びがあるなら、ワタシも参加させていただきまショウか……huhuhuhu…」妖しく微笑む村正が、白玉を見つめてにじり寄る。白玉は、団子を一口かじりながら、少しだけ身を引く。「主…脱ぎまショウか?」村正はお決まりの台詞を口にするが、白玉は戸惑いながら首を振る。「い、いらない……」
そのやり取りに歌仙が咳払いしつつ、冷静な表情で告げた。「落ち着くんだ、村正。主も困っているようだし、こういう場面こそ、風流をもって楽しむべきだろう」
鯰尾が頷き、「さすが歌仙、じゃあ歌仙も参加しない?」と笑顔を向けると、歌仙もにこりと微笑んだ。「ふむ……主のためなら、僕も最も美しい紅葉を探し出さねばな」
四人は、庭の紅葉を一枚一枚眺めながら、お気に入りの紅葉を探し始めた。白玉は団子を食べながら、それぞれの動きを見守っている。
最初に動き出したのは鯰尾だった。「やっぱり一番綺麗な紅葉っていったら、鮮やかな赤だよな!」と意気込んで、目に留まった鮮烈な赤色の葉を手に取る。鯰尾の顔には、自信満々の笑みが浮かんでいた。「これだ!主にぴったりの真っ赤な紅葉、これ以上のものはないだろう!」
一方、歌仙は一枚の紅葉を見つめ、少し考え込んでいた。「確かに真っ赤な紅葉も美しいが…どうだろう、深い緑が少しだけ残っている、こういう絶妙なグラデーションこそ、秋の移り変わりを感じさせるものではないか?」彼は、ほんのりと赤みが差し込む緑の葉を手に取り、優雅に掲げる。「主には、このような風情ある紅葉が似合うと思うが、どうだろう…」
その横で村正は、妖しい微笑みを浮かべながら、一風変わった紅葉を選んでいた。彼が手にしたのは、わずかに紫がかった珍しい紅葉。「huhuhuhu…この不思議な色合いの紅葉など、いかがでショウか、主?どことなく妖艶な雰囲気が漂っていて…」白玉は少し顔を引きつらせながら、村正の葉を見つめる。
そして、にっかりは静かに笑みを浮かべながら、落ち着いた色の紅葉を見つけていた。「僕はこれにしようか…夕日に照らされて、ほんのり金色に染まったこの葉は、穏やかでどこか温かみを感じるね。主がこんな穏やかな紅葉を見て、心和む様子を見たいな」
四人がそれぞれ選んだ紅葉を掲げると、白玉は団子を食べる手を止め、少しずつ目を輝かせながら一人一人の紅葉を見比べた。それぞれが自分なりの美しい紅葉を見つけ出し、白玉を喜ばせようとしているのが伝わってくる。最後に鯰尾が胸を張り、「どうだ、主!この中で一番綺麗な紅葉を選んで、一緒に出掛ける約束をしてくれよ!」と微笑んで言った。
四人がそれぞれ、自分の紅葉こそが主にふさわしいと主張しているのを見て、白玉はふと微笑んで、手に持っていた団子を口に運んだ。そして、少し考えるように彼らを見渡してから、小さな声で言った。
「……どれも、綺麗……」
その言葉に四人は一瞬静まり、少し驚いたように白玉を見つめた。白玉は続けて、小さく笑みを浮かべながら、ぽつりと言葉を紡いだ。
「みんなで……お出かけしたら、いいんじゃないかな……?」
その言葉に、四人は一瞬きょとんとした後、少しずつ表情が柔らかくなり、互いに顔を見合わせた。
「……それも、悪くないかもな!」鯰尾が嬉しそうに笑い、「主がそう言うなら、もちろん従うまでだ」とにっかりも微笑んで頷く。歌仙も満足そうに、「主の望む形が一番美しいものだ」と柔らかな口調で言い、村正も「huhuhu…ならば皆で、主と共に美しい秋を堪能しまショウか」と妖しげな笑みを浮かべながらも満足そうに応じた。
白玉は、四人がそれぞれ納得したのを見て、ほっとしたように小さくうなずく。そして、手に持った団子をもう一口かじりながら、穏やかな秋の空気に包まれて微笑んだ。
こうして、みんなで紅葉狩りに出かけることが決まった。四人は互いに競い合いながらも、どこか楽しげな様子で白玉を囲み、紅葉が美しい場所へと向かう。それぞれが自分の選んだ紅葉を持ち寄り、白玉のために秋の一日を満喫するという、あたたかでほのぼのとした時間が、静かに流れていった。
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