2. アフタヌーンティーのひととき
秋の穏やかな日差しがさす昼下がり、白玉は鯰尾、村正、にっかり、そして歌仙と共に、紅葉が彩る庭園のアフタヌーンティーに赴いた。
席に着くと、赤い鳥かごのような三段スタンドが運ばれてきた。スタンドの上には可愛らしい花の飾りが添えられ、その下には色とりどりのケーキやタルト、スコーン、クッキーがぎっしりと並べられている。まるで宝石のような見た目に、思わず息を飲んだ。
「こういうの、ほんっとに良いね!」鯰尾は目を輝かせて、スタンド全体を見回しながら嬉しそうに声を上げた。「これ、全部食べていいんだよな? どれも美味しそうで迷っちゃうなぁ!」と、手をわくわくと動かしながら、早くも何を取るか決めようとしている。
村正はスタンドの鳥かごのようなデザインに注目し、「まるで美しい檻の中に、甘い囚われ人がいるようデス……huhuhuhu、脱がしてみたくなりまセンか?」と、少し妖しげに茶目っ気を見せる。「主がどれを選ぶか楽しみデス…」と、少し意味深に白玉の様子を見つめている。
「おやおや、これは……本当に風流だね。」歌仙は赤いスタンドに並んだ一品一品を吟味するように見つめ、感慨深げに頷いた。「この美しい盛り付け、そして色彩の妙……一つ一つに職人の思いがこもっているのだろうな。」
「こうしてみると……食べるのが少しもったいない気もするけどね。」にっかりは微笑みながら、スタンド全体をじっと見つめた。「でも、美しいものは味わってこそ価値があるってものさ。」
白玉は、まず淡いピンクの小花が描かれたティーカップを持ち上げ、ちょこんと唇をつける。彼女の瞳は、スタンドに置かれたスイーツにくぎ付けだ。そして暫くして、丸くて、少しぷっくりとしたマカロンに、視線が止まる。「……まかろん…おいしそう……」と思わず小さく口に呟いた。
その様子に気づいた鯰尾は、くすっと笑ったあと、白玉に向かってほほ笑む。「俺が取ってあげるよ、主。気に入ってるみたいだね。」彼はすぐに手を伸ばし、ピンク色のマカロンを優しく一つ、白玉の皿に乗せた。
「……ありがとう。」白玉は少し驚いたように目を見開きながらも、素直にお礼を言う。そして、鯰尾が取り分けてくれたマカロンをそっとつまみ、一口頬張る。その甘さと香りに、思わずほっとしたような表情を浮かべた。
鯰尾は、白玉が口にしたその瞬間を見届けると、満足そうに微笑んだ。
「どう?気に入った?」
「うん……美味しい。」
村正がにやりと笑い、「主は甘いものが好きなのデスね?」と問いかける。その言葉に少し頬を赤らめ、白玉は微かにうなずく。
「では……コチラもいかがでショウ?」村正は小さなフォークを取り、チョコレートケーキを指差す。「チョコの深い苦味と甘さが交じり合い、まさに濃厚な…大人の味わいデス。」村正の口は、ほんのりと色を添えて言葉を紡いでいた。彼はケーキを切り分け、白玉の皿に置いた。
「誰かを味わうように……少しずつ、大人のほろ苦い甘さを感じてほしいデス……」その言葉には、どこか誘うようなニュアンスが込められていて、白玉に向けた視線は、無意識に隣に座る鯰尾へと移る。
その視線の先、鯰尾は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに軽く首をかしげ、微笑みを浮かべるだけだった。村正の言葉の真意を感じ取ったのか、それとも何も知らずにいるのか、わからないまま、彼の視線を受け入れた。
にっかりは鋭い眼差しで二人の微妙なやり取りを見逃さなかった。村正の意図を感じたようで、ふっと笑みが溢れた。
「おやおや、それは…まるで、主が…誰かを味わいたくて仕方ない人が居るみたいだね…」
にっかりの言葉に、歌仙が反応した。溜め息をつき、すこし肩をすくめながら「主の前で、そんな雅さに欠ける話をしないでくれ。」と呆れたように言う。
「おや、嫉妬かい?」挑発的な表情でにっかりが答えると、歌仙は視線をそらしつつ、「…せっかくの茶が、台無しにされては困るだけだ。」とだけ言った。にっかりはその言葉を聞いて、少し面白そうに笑みを浮かべる。「ふふ、なるほど、そういうことか。ならば気を付けるとしよう。」と、あくまで軽い調子で言った。
「それにしても、本当に……どれも見た目が可愛らしいお菓子だね。」にっかりが笑顔でカップケーキを選ぶ。淡い紫のクリームがふんわりと乗っていて、花びらのように美しい。「こういう繊細なものを見ると……つい笑みが溢れるよ。」にっかりの微笑みはいつも通り爽やかである。
歌仙は静かに紅茶を味わいながら、少し吟味するように目を細めた。「ふむ、ここまで風雅な場であれば、やはり抹茶のケーキなどを食べるべきだろうな。風流の趣がある。」彼は薄く切られた抹茶ケーキをゆっくりと口へ運ぶ。「……この抹茶の渋みと甘さの調和。実に奥深い。」
静かに微笑みながら、白玉は皆が思い思いの菓子を楽しむ姿を見守る。彼女もマカロンを一つ摘まみ、そっと一口。「……美味しい。」淡々とした表情だが、その一言に、ほのかな満足感が感じられる。
暖かな日差しが庭に差し込み、穏やかな午後のひとときが流れていく。紅葉が風に揺れ、彼らの笑い声が秋空に溶けていった。
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