3. ポッキーゲーム!?
11月11日、穏やかな秋の日差しが差し込む本丸の一角で、鯰尾がにこにこと白玉に歩み寄り、手にしたポッキーの箱を見せていた。
「主~、今日は11月11日だよ!ポッキーの日って知ってる?」
白玉が小さく首をかしげると、鯰尾は得意げに笑って説明を始めた。
「ポッキーの日っていうのはね、このお菓子、ポッキーを使って遊ぶ日なんだ!『ポッキーゲーム』っていって、こうやって……」と言いながらポッキーを一本取り出し、端を口に咥える仕草をしてみせる。「二人がそれぞれの端をくわえて、どっちが先に折れずに続けられるかって遊びなんだよ。もちろん……くっついちゃう可能性もあるけどね」
白玉がぽかんとした表情で鯰尾の説明を聞いていると、そのやり取りを見ていた村正とにっかり青江が、ふと目を輝かせた。
「huhuhu…なんとも魅力的な遊びではないデスか、ワタシもぜひ参加させていただきまショウ」
「ふふっ、そうだねぇ。これはなかなか面白そうだ」と青江も愉快そうに微笑んだ。
その一方、歌仙は苦笑いを浮かべ、少し引き気味に首を振った。「いや、僕は遠慮しておくよ。そんな遊びは、いささか品がないように思えてね」
だが、村正と青江は歌仙の反応をあまり気にすることもなく、早速ポッキーを取り出してゲームを始める準備をし始めた。
「では、にっかり、どうぞワタシとお手合わせ願いまショウか。」
村正が妖しげに微笑みながらポッキーを差し出すと、青江もまた口元に笑みを浮かべて、軽く頷いた。「もちろん、村正。さぁ、勝負をしよう。」
二人が互いにポッキーを咥え、少しずつ顔を近づけていく様子に、鯰尾は楽しそうに笑って見守っている。その横で白玉は、少し不安そうに二人の姿を見ている。
やがて、村正と青江の顔がだんだんと近づくも、どちらも負けじとポッキーをくわえ続けていた。
「ふふ、さすが村正、楽しませてくれるねぇ」
ポッキーがどんどん短くなり、青江と村正の顔があとわずかで触れそうになっていくたびに、「もしかして本当にキスしちゃうんじゃない…?」と鯰尾は心配になり、主に見せてはいけないものを見せてしまうのではいかと思い、白玉の目を覆い隠す準備を始める。
その光景が村正の視界に入ったようで、思わずポッキーから口を離した。勝者となったのはにっかり青江だった。青江は微笑を浮かべながら、ポッキーの最後のひとかけらを噛みしめて、村正に向かってささやくように話し出した。
「勝つために必要なのはね、いかに自分を貫けるか…そして、いかに相手の動揺を見抜くかなんだよ」
「貫く…ですか。huhuhu、ワタシもそれならば得意のはずデス…。次は負ける気がしませんねぇ…」
言葉の端々に、妙に妖しげな響きを帯びた村正の声に、鯰尾が思わずぞくっと肩をすくめると、青江は面白そうに笑みを返す。
その一方で、少し離れたところで二人の会話を聞いていた歌仙は、やや引き気味にため息をつく。そして、ふと静かに目を閉じ、気持ちを落ち着かせるように一息ついてから、口を開いた。
「折れぬ芯 されど纏うは 雅の気品」
そう吟じると、歌仙は厳かな目で村正と青江を見やり、「貫くにしても、慎みと品が必要だ」と、言外に意味を込めた眼差しを送った。
鯰尾はその一句に少し苦笑しつつ、「さすが歌仙、しっかり注意してくれるんだな…」と、二人の独特なやりとりを見守るのだった。
鯰尾はふと白玉に目を向けた。少し真剣な表情を浮かべ、彼女に向かってそっと声をかける。
「なぁ、主…今度はオレたちでポッキーゲームをしてみない?」
鯰尾の顔には、どこか期待と少しの照れくささが滲んでいる。ポッキーの細い棒を手に持ちながら、白玉の反応をじっと見つめている。
白玉は、一瞬きょとんとした顔をしながらも、その提案に少し戸惑っている様子だった。しかし、鯰尾の真剣な目に触れ、ややためらいながらも頷いた。
「…わかった、やってみる……」
小さな声で返事をする白玉に、鯰尾は嬉しそうににんまりと笑い、手に持ったポッキーを少し差し出す。
「じゃあ、オレからいくぞ…気楽に構えてよ、主♪」
鯰尾の言葉に白玉も小さく微笑み、ふわりとした雰囲気の中、二人はポッキーを挟んで顔を近づけていく。その姿を見た周りの刀剣たちは、微笑ましそうに二人を見守っていた。
「大丈夫、緊張しなくていいから…」と鯰尾が小声で囁くと、白玉は少しうつむきながらも再びポッキーに向かう。ふわりとした表情の中に、ほんのりとした赤みが差している。
「おい鯰尾、…頑張りすぎるなよ」と、遠くで見守っている歌仙がやや気恥ずかしそうに声をかけるが、鯰尾は「わかってるよ」と軽く返事をし、さらに白玉との距離を詰めていった。
そんな二人を横目に、村正がにっこりと微笑みながら、青江と顔を見合わせる。「huhuhuhu……この調子だと、本当に最後まで行きそうデスねぇ…」と、どこか含みのある口調で囁くと、青江も愉快そうに頷く。
そして、ポッキーの長さが残りわずかになる頃、白玉がハッと気づいたように少し後ずさりし、口を離した。鯰尾も驚いて動きを止め、そして顔を綻ばせた。「やった!主に勝てた!」と、目を輝かせて白玉に向かって無邪気に喜びを表現している。白玉は少し恥ずかしそうに顔を伏せながらも、「…楽しかった……」と、穏やかに答える。
鯰尾が喜んでいる様子を見て、村正が白玉に近づき、少し寂しそうに微笑みながら、「もう少しでしたね、主……」と囁くように言った。彼の表情は、白玉が負けたことを悔しむというよりも、むしろ鯰尾とのキスが成らなかったことを惜しんでいるようにも見える。
白玉は村正の言葉に、一瞬何かに気付いたように頬を赤らめて、そっと視線を逸らした。
そこににっかり青江が柔らかな笑みを浮かべながら、村正の肩を軽く叩く。「あんまりからかってあげるなよ、村正。主が困ってしまうじゃないか」と言いながら、彼もどこか楽しんでいるように微笑んでいる。
「huhuhu、主が困る姿もまた、愛らしいものデスからね……」と、村正が軽く肩をすくめると、にっかりも苦笑交じりに頷き、二人の何気ない言葉が白玉をさらに照れさせるのだった。
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